「ロールモデルがいない難しさ」は、仕事の現場に限らず、働く女性からよく聞く言葉です。もう何年も前から、そして現在もあまり変わりなく。
先日、引退を発表されたバレーボール女子日本代表主将の荒木絵里香選手は、出産後も選手に復帰し五輪4大会連続出場をされました。遠征や合宿などもあり、出産後に復帰する選手は稀だったそうです。引退にあたり語ったことの中で、「出産してからの復帰することを勧めるということではないが、選択肢の1つとして(復帰が特別なことではなく普通に)存在する」ことが望ましいというようなことをおっしゃっていました。
それを聞いた女性キャスター(出産後短期間で復帰)がしみじみと、「ロールモデルが少ないですから、難しいですよね」と自分のケースにも重ねるかのようにおっしゃっていたのが印象的でした。
世間を見渡せば、以前よりはロールモデルと思える女性はいるかもしれません。ですが、自分が直接話ができるレベルで言えばどうでしょう?
そうなると一気に「自分の周りにはいない」という声が聞こえてきそうです。実際、知人は他社に勤める年下の女性から、こう言われたそうです。「世間には〇〇さん(知人の名前)のような方もいることは知っています。だけど、自分の会社や身近なところにはいないんです。だから、将来どうしていけばいいのか?どんな道があるのかが、見えなくて手探りなんです」と。
メンターの役割
メンターとは、日本語に訳すと「相談者」や「助言者」とありますが、働く女性においては、上下関係を伴わない関わりで、精神的な支えとなる存在ではないかと思います。
私の場合、ラッキーなことに会社員時代は社内の他部署に女性管理職の先輩方が何人もいましたので、そうした方々に、日々の仕事のトラブルや決断を迫られるような時や、働き方など、あらゆる場面で支えになってもらうことができました。
特に決まったタイミングで会うとか指導を仰ぐということではなく、何かの時にふと相談したり、ちょっとしたアドバイスがとても響いたり、彼女たちのあり方そのものを見ることができたり。とても救われていたと思います。
メンターが求められる理由
なぜ上司ではなく、教育係というわけではなく、上下関係を伴わない関わりで、精神的な支えとなる存在が必要なのでしょう?
知識は得られるけど
マネジメントや働き方、ビジネススキル、時間管理等、様々なスキルについては、かつてとは比べものにならないほど情報を得ることができます。本やネット、セミナーなどでも。
ですが、上司の何気ない一言がどうしても気になったり、自分はこれで本当にいいのかと悩んだり、正解はわからないけど、そのままにしておけない日常の何気ないことってたくさんあります。
上司や仕事上なんらかの関わり、利害関係があると、どうしても本当のところは話せません。こんなこと言ったらまずいんじゃないか、と構えてしまいますし。まして家族のことなど、よほど話しづらいものです。
私が相談された経験や私自身が聞いて欲しかったことなどを振り返ってみると、
・結婚や離婚、再婚、出産など人生のステージの変化に伴う働き方についての相談
・自分の指示だと動かない人たちが、他の男性の上司の指示だと動くやり切れなさ
・部下の評価の仕方
(成果以外のことをどう考えればいいかや、限られた昇級のための予算をどう割り当てればいいのか)
・部下の出産や育児休暇について
・上司と価値観が異なることについて
・自分のキャリアのこと
・労働時間と成果の考え方
・スタッフ間のトラブル
・家族のこと
など、様々です。
得たいのは、判断材料、気づき、安心感
振り返ると、求めていたのは「どうすればいいかの正解ではなく」、あなたならどうするか?こんな時、どうしていたのか?どんなことを基準に考えるといいのか?どんな考え方があるのか?かというような判断の材料となること、気づき、安心感を得ることだったと思います。
ロールモデルやメンタがーいないと材料が少なくて、わからないというより、判断はできないし、判断に自信が持てないのですよね。
社外メンターの効果
メンターは、正解を教えるのではないものの(自分の経験からアドバイスをすることはあっても)、気づきを与えたり、気持ちをラクにしたり、エンパワメント(元気づける、活性化させる)する効果が確かにあります。こうした効果が人を成長させていくのだと私は実感しています。研修等では培うことのできない本当の意味での成長です。
人は教えられたことより、自分で動いたことの方が何倍も強く印象に残ります。メンターは、優秀な人材の離職を防いだり、経営者であれば、常に良い状態で働くことの支えになるでしょう。
コーチングとの違い
コーチングの主な役割・効果は、目標の達成や何かを目指すものに対して、気づきを促し、行動につなげていくものです。組織で言えば上司がコーチング的なアプローチでこれを行うことが多いと思います。
メンターは目的な目指すものを共有する相手ではなく、助言者、相談相手であるのでコーチングとは異なりますもちろん、コーチングでも目的達成だけではないアプローチもできますが、受ける側が構えがちかと。メンターはもっと柔軟に接することができ、心を開きやすい存在だと考えます。
社外メンター導入のポイント
関係性
メンターとメンティ(受け手)にとって最も大切なのは信頼関係です。今、話したことが誰かに伝わるのではないか、と思えば安心して話せません。そのため、利害関係のない適度な距離感も求められます。
資質
自分の考えを押し付けない、傾聴力がある、(リーダーに対するメンターであれば)自分自身もリーダー経験がある、人と接するにあたり自分を整えることを習慣づけている人が望ましいです。コーチングや行動学、心理学、マインドフルネスなど人のあり方において学んでいる場合、自分を整えることを心かげている可能性はとても高いと思います。
環境
他の人から話が聞こえない環境で、定期的に一定期間継続することが大切です。1回や2回では本心はなかなか出てこないですし、そのとき、なんとなく気が晴れてよかった、で終わってしまい、成長という段階まで届きません。
何かあるから話すのではなく、定期的に合うことで気づきが生まれ、信念や概念が変化し行動が変わり、それが自信につながっていき、周りにも良い影響を及ぼします。
まとめ
メンターとは、成長を導く助言者、相談相手であり、安心して話せる信頼関係が欠かせない。そのために、利害関係のない一定の距離感も大切です。
知識や教育で得られることには限界があり、働き方や考え方、起きる現象が多様化している現代において価値が高まっています。
私が理想とするのは、映画「マイ・インターン」のロバート=デ・ニーロのようなあり方。
ご存知ない方のために、ごく簡単にストーリーを書くと、アン・ハサウェイ演じるファッションサイトのCEOは、経営やプライベートの悩みを抱えつつ日々忙しく働いています。
そこに、シニアインターンプログラムの一環として配属された70歳の新人のロバート=デ・ニーロが、インターンでありながら、そのあり方、物言い、人を受け止めるしなやかさで、そこで働く社員達が彼に心を開き、悩みを相談し、彼からいい影響を受けていきます。
彼を最も支えとしたのは、経営判断、マネジメント、プライベートなど、公私に渡り、いつの間にか、彼に相談するようになっていたCEOの彼女(アン・ハサウェイ)でした。
私自身は50代でありもういい大人ですので、彼のようなあり方で、迷うこともありながら、一生懸命働き、奮闘している女性たちの心の支えになることができればと思う毎日です。